第17章 xxx ending √2:KEIJI
季節外れの雨が降る。
ポツポツと雫。冬の夕暮れ。
朝までの抜けるような青空は消え、どこまでも続く雲は鉛色。
重い。ただ漠然とそう思う。
『岩泉さん、アンタに頼みがある』
赤葦京治が差し出したのは、一台のスマートフォンだった。
何のアドレスも登録されていないそれ。恐らく、名義人はこの世に存在しない誰かだろう。裏で生きる人間の常套手段。でも、一体何のために。
抱いた疑問を口に出す暇もなく、矢継ぎ早に言葉が足されていく。
『明日、白鳥沢組に関するニュースが流れたら、この番号に電話してください。きっと、カオリが出るはずです』
『……カオリが?』
『ええ。それで、なるべく遠くへ……俺との関わりがバレないように、逃げてほしい。彼女を連れて』
彼の並々ならぬ決意。覚悟。
それは警察に自首することだった。
俺が飲まされた違法ドラッグ。それに伴うビジネス。白鳥沢組の実質的な資金源。全てを道連れにして自首する旨を、彼は語ったのだ。
もう、誰も傷付かなくていいように。
『この町を救いたい……なんて、大それたことは言いません。ただ、それでも、守りたいんです』
カオリを。カオリの、笑顔を。
『俺は結局、泣かせることしかできないけど……岩泉さん、アンタなら、』
赤葦京治は笑っていた。
血だらけのスーツを身に纏って、口元だけで笑っていた。その笑顔はやっぱり悲しそうで。辛そうで。
「かっこつけやがって、……馬鹿野郎」
季節外れの雨が降る。
冷たい雫。冷たい夕暮れ。
凍えた指でダイヤルを回して、泣き疲れた彼女の声を聞いて、思うのだ。
俺は、彼の託した想いに応えることが出来るのだろうか。本当に、俺なんかで良かったのだろうか。
分からない。今は、まだ。
もしかしたら一生分からないかもしれない。けど、それでも、全力で愛すと誓おう。幸せにしてみせる。絶対に。
『……岩泉さん、……どうして?』
「詳しいことは会ってから話す」
だから、迎えに行くよ。カオリ。