第16章 xxx ending √1:TORU
大学に併設された病院。
暖房でほどよく温められた廊下は、ほんのりと消毒液の匂いがした。
【岩泉一】
病室の入口に貼られたシールを見て、胸のあたりが重たくなるのを感じる。
手が震える。
足がすくむ。
本当に来てもよかったのだろうか。彼は、岩泉さんは、私になんか会いたくないんじゃないだろうか。やっぱり、帰った方がいいのかも。
さっきからずっとこの調子。
病室に着いたのは30分も前なのに、未だ、一歩踏みだすことが出来ずに立ち尽くしている。
『黒尾……ありがとう、ごめんね』
結局、私はオーナーの目から逃げて迂回するルートを選んだ。黒尾は深追いせずに頷いてくれたけど、すごく悲しそうな顔をしてた。
待ち合わせしたコンビニで彼と別れて、私は、京治さんのマンションに帰ったのだけれど。
残してきたのは短い手紙。
ありがとうございました。ごめんなさい。たった二言を書くのに、何時間もかかった気がする。
この町から出ていこう。
そう、思ったのだ。
どこか遠くでひとり懺悔する日々を送ろう。これが私の選択だった。我ながらに偽善的な考えだとも思ったが、他にできることなんて、私には何もない。
そうして最後にやってきたのが、ここ。岩泉さんのいる病院である。
コン、コン
意を決してドアをノックする。
返事はない。突きつけられる現実。音のない世界。きっと、彼は、まだ──
「…………カオリ?」