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(R18) Moulin Rouge (HQ)

第15章 extra xxx 003



(俺らもしとく? チューとか)

(絶対しないしマジウザい)

(即答かつ手厳しい答えだな)


 元上司の痴態を前に、ほぼ口パクで痴話喧嘩。くだらないやり取りをしつつ頭を巡らせる。

 状況がどうだったにせよ、私は、ピンクオウルと敵対関係にある店に引き抜かれたのだ。

 それは裏切りに他ならない。
 ここでオーナーと鉢合わせしてしまったら、何を言われるか。考えるだけで恐ろしい。一刻も早く逃げなければ。

(……黒尾、遠回りしよう)

 反対側の通路から回れば、オーナーに見つかることなく駐輪場に辿りつける。

 右斜め後方にいるはずの黒尾に声をかけたが、しかし、彼は動こうとしなかった。

 どうしたの?

 視線だけで問いかける。
 高いところから私を見つめる猫のような瞳は、いつになく、真剣だった。


(お前さ、……ずっとそうやって、逃げながら生きていくつもり?)


 グサリ

 包丁で抉られたみたい。

 彼は、黒尾は、私が思うよりもずっとずっと、私のことを考えてくれてる。それが痛いほど伝わってくる。

 逃げるな、選択しろ、戦え。

 彼の目がそう語りかけてきて、顔を、背けることができない。


(大丈夫。俺が、守るから)


 彼は言う。大丈夫。
 それはいつか聞いた台詞。忘れもしない、岩泉さんの台詞。

 走馬灯のように今までの出来事が、廻る、巡る。徹くんの悲しそうな背中。慈愛に満ちた京治さんの手紙。

 私、どうすればいいの。


(…………私、は)


 これはきっと分岐点だ。

 運命の分かれ道。未来へと続く交差点。どちらへ曲がる。どちらへ進む。何を、選択する。

 永遠にも感じる時間が流れて、私が導きだした【選択】は──










第三話「消えた研磨の行方」__fin.
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