第14章 extra xxx 002
下水の臭気が鼻をつく。
夜を失った繁華街のメインストリートには、薄雲に隠れた陽光が粛々と降り注いでいた。
時を遡ること五年前。
遠い日の、とある朝。
赤葦京治がうんざりとした面持ちで一番街を歩いている。
「あかーしィ! もう一件!もう一件行こう!今日は死ぬまで飲むぞー!」
原因はこの男、木兎光太郎だ。
バイト先での先輩にあたる木兎は上機嫌だが、その足取りは、千鳥足というより生まれたてのヒナ鳥に近い。
面倒くさい、と赤葦は思う。
この巨体でフラつくのだから正直厄介でしかなかった。かと言って捨ておくワケにもいかないのが現実。先輩だし、一応。
赤葦は「いい加減にしてくださいよ」と嘆息してみせて、フラつく木兎の身体を支えてやった。
「木兎さんはお酒強くないんですから、もう少し自制しないと……いつか本当に死にますよ」
「ヘーキ! 俺、鍛えてるから!」
「あのね……肝臓は筋肉じゃないんですから鍛えるとかそういう問題じゃな」
「よし!次はお姉ちゃんがいる店にしよう! ぱっつんぱっつんの子がいっぱいいる昼キャバ行こう!」
あ、この人何言っても無駄だな。
早々に説得を諦めて閉口した赤葦。
基本的に長いものに巻かれとくタイプの彼は、ピンクオウルの看板に泥だけは塗らないようにと、先輩の監視(お守りともいう)に徹するのであった。