第12章 xxx 11.幽閉
彼の左腕を覆っていた包帯が解けていく。消毒液の染みこんだガーゼが剥がされて、露わになったのは傷痕。
恐らく切傷だ。
裂けた肉が黒っぽい糸で縫い合わせられている。
その、あまりの痛々しさ。
背筋がゾワゾワと震えた。
「あの……京治、さん」
当然なのだがここはヘルスで、換えの包帯は備わっていないし、専用の消毒液もない。
そのことを伝えようと口を開くと、京治さんは、まるで私の心を読んだかのような返答をする。
「帰ればあるから。包帯」
「そ、う……ですか」
「寮だからそんなに広くないけど、まあ、お前ひとり泊まらせる分には問題ないと思う」
「へ……泊ま、る?」
突然の言葉に驚いて目を白黒させるが、彼は、相変わらずの無表情で淡々と話を続けた。
「ああそれから、カオリは今日でこの店、おしまい。明日からはもっといいところで働きな」
あれよあれよという間に。
話が進んでいく。拗れていく。私は理解が追いつかず、ただ呆然とするだけ。
「俺の側にいて、……カオリ」
私を抱き締める彼の背中。
純白の鷲が舞う彼の背中。
恐る恐る手を回せば、ザラザラと、普通の皮膚ではない感触が掌に伝わった。
『覚悟しな』『絶対逃がさない』
彼の台詞が脳裏に浮かぶ。
求めたのは私だ。奪ってくれと願ったのも私。すべて私が望んだこと。もう、逃げることは許されない。
京治さんの家が一番街を牛耳る【白鳥沢組】の所有マンションで、私は、そこの【若頭】が経営する高級ソープで働くことになるのだけれど──
それは数時間後のお話。
この町の最も暗い部分に、私は、触れてしまった。
xxx 11.幽閉___fin.