第12章 xxx 11.幽閉
「赤葦京治さん……か」
あれから数日が経ったある夜。
予約表に貼られたショッキングピンクの付箋には、彼の名前。
光太郎の荒っぽい字で書かれたそれを見つめて、つい緩みそうになってしまう頬を引き締める。
『次はラストまでお前のこと買うわ』
ただの口約束。社交辞令。
そうだとばかり思ってた。まさか、本当にオーラスで予約を入れてくれるなんて。
「なんて紳士的なの……すてき」
胸の前で五指を組んでうっとりしていると、頭の天辺をポコッと何かに叩かれる。
何か、というか、光太郎が愛読してる風俗雑誌(薄くて無料配布してるやつ)だけど。
「ちょっと、何すんのよ」
「嫉妬による愛の鞭、的な」
「……意味分かんないから」
この季節にしては暖かい今日。
雨の匂いがする風が連れてくるのは、夢か、幻か。
忍びよる蜜夜。悦楽の気配。
私の人生にとって、運命の日と言っても過言ではない一夜が始まろうとしている。もう、この町から逃げ出すことはできないだろう。
「暴力反対です光太郎くん」
「キスしてあげるから許して」
「いや全力でお断りします」
自分の身に起ころうとしていることを、この時の私はまだ、知らない。