第1章 xxx 00.雇用契約
「じゃあこれな、はいどうぞ」
見知らぬ大都会のラブホテル。
男が渡したのは、二万円だった。
ひっきりなしに電車が走る線路の高架下。パチンコ屋のネオンの下でうずくまっていた私は、この男に買われたのだ。
「……どうも」
だらしない笑みを携えている男から、皺の寄った一万円札をもぎとってそっぽを向いた。早く帰りたい。まあ、帰る場所なんてどこにもないけれど。
「無愛想だねェ。顔はかわいいのに」
そう言ってタバコに火を付ける。派手な格好をした白髪の男は、細く煙を吐いて、私の頬を撫でた。
「なァお前、カオリだっけ?
俺んとこで働いてみねェか」
男は言う。
売りなんかやらなくてもよ、お前にゃもっといい稼ぎ方教えてやるよ。
「どうよ。やってみっか?」
ほとんど有無を言わさぬその物言いに「……うん」と頷いてしまったことが、すべてのはじまりだった。