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【ヘタリア】蒸気と歯車の町【夢小説】

第1章 彼と初めて出会った日の事


Side:カエデ

全ての始まりはあの日、眠れずにお父さんとお母さんの部屋に向かったことからだった。
元からあまり好きな両親でなかった。東洋人の私を養子にとった後、たくさんの習い事をさせた。
その癖、私に知識を付けさせることを嫌って書斎への立ち入りを禁じた。
でも私は二人の目を盗んであらゆることを勉強してきたつもりだ。
この国のことやこの階級のこと。知ったのはこの世界の人々は空の色と同じくすす汚れている人ばかりだということだけ。
もちろん私も、私の両親も、みんな。
それでもその日まではまだ二人は両親だった。
私はそっと二人の寝室の前に立つと部屋の中に聞き耳を立てた。

「ねぇ、明日はあの子の誕生日よ」

「もういくつになる?」

「11才。そろそろかしら?」

「そうだな。いい金額で引き取ってくれるところは見つかった」

「それってどのくらい?」

「馬車が血統書つきの馬とセットで買えるさ」

明かりの漏れる部屋から離れると私は荷物をまとめようと部屋へ戻った。
二人から貰って名残惜しむものなど無い。
アクセサリーもドレスも要らない。ただ持っていくのは本当の両親から貰った手紙だけ。
私は寝巻きから着替えると家から飛び出した。
夜道を照らすガス灯を辿るように貴族外から逃げ出した。
幸い夜の間に下町へと逃げ込むことが出来た。

「よう、譲ちゃん。今はおねんねの時間だぜ?」

「お生憎。家で私の代わりにテディが寝てくれてるわ」

「威勢のいいガキだ。おい、そっちはダウンタウンだぞ?」

「知ってるわ。だから黒猫が通ったことにでもして頂戴」

からかってくる男たちをあしらってダウンタウンを目指した。
この下町で朝を迎えるのは良くない。下町は悪名高いマフィアが牛耳る町だから、私なんてすぐに捕まって家に居たときより、はした金に買えられてしまう。
ダウンタウンへと繋がる階段を下りていくとそこは地上よりも煙臭く煤だらけだった。
勢いでここまで来る事が出来たが見たことの無い空間を目の当たりにして心の隙間から臆病風が吹き込んでくる。
…引き返すなら今かもしれない。でも、今帰ったところで何か自分の望む物があるだろうか。
売られてもサーカスに居たほうが良かったと思うことがこの暗闇の先に待っているかもしれない。
けど、それでも。私は自分を誰かに決め付けられるのが嫌でまっすぐ歩き始めた。
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