第2章 下心~明智光秀~
寝室へ赴いた光秀は、襖を開けて中へ入ろうとして立ち止まった。
褥が二組、ぴったりとくっつけた状態で敷かれている。
(……これは)
普段は人が一人通れるほどの隙間が空いていたはずだ。
別に自分が指示したわけではない。
女中が気を利かせてくれたのだろうか。
しかし、この状態ではあからさますぎないだろうか。
確かに、中々タイミングが掴めずにいたのは間違いないのだが。
どうしたものか、と考えていると、
「光秀様、どうかなさいましたか?」
と、琴子がやってきた。
「いえ…何でもありませんよ」
そ知らぬ振りをして光秀は部屋へ入る。
琴子も同じ部屋で寝起きしているので後に続く。
「あれ…」
そして、光秀と同じように立ち尽くした。
困ったような顔をしている琴子を見ると、少し意地悪したくなった。
「寝ましょうか」
「えっ?!」
「…寝ないのですか?」
「あ、いえ、そうではないんですけど…」
「では横になりましょう」
「は、はい…」
さっさと褥に横たわり、光秀は琴子の様子を眺める。
緊張しているのか、羽織った打掛を脱ぐのにもたついているのが分かり、光秀は密かに笑う。
白の寝間着は生地が少し薄く、体のラインがぼんやりと透けて見えるので、無意識にじっと見つめてしまう。
琴子は気づかず、光秀に背を向けたまま褥の中へ入った。
しかし、落ち着かないようでもぞもぞと寝返りを繰り返している。
「…眠れないのですか」
「えーと、あの、はい…」
光秀が声をかけると、琴子は仰向けになった。
どうあってもこちらを向く気にはなれないらしい。
「琴子さん」
「はい…っ?!」
琴子はいきなり目の前に現れた光秀に驚いた。
「な、な、どうしたんですかいきなり…!」
「あなたこそ…どうかされましたか?」
「え…?」
「先ほどから一度もこちらを向いて下さらない」
「そ、れは…」
琴子の瞳が揺れる。
「あなたが心配です」
光秀はほんの少し眉をひそめて見せる。
そんな表情をわざと見せられているなどと思いも寄らない琴子は、慌てて首を振った。