第7章 横恋慕 ~片倉小十郎~
ぱくりとかぶり付けば、ふんわりとした食感とほどよい甘さが口の中に広がった。
「どうですか?」
「うん、美味しい」
「良かったです」
そうして甘味を堪能しながら琴子を見ていると、先ほどの酒蔵の男のことなんて気にしなくてもいいだろう、と思えてきた。
自分がこれだけ惚れ込んでいるのだから、他の男から見ても琴子は魅力的なのだろう。
それは致し方ないことだ。
そんな風に考えた矢先。
「小十郎様、この後少し城下へ買い付けへ参ります。何かお急ぎの所用などございませんか?」
「…買い付け?」
「はい。野菜と…お酒を少し。珍しいお酒を勧めて下さる酒蔵がありまして」
「――そうか。いや、今のところ急ぎの仕事はないよ」
「そうですか。それでは買い付けが終わり次第、お部屋に伺いますね」
「ああ、そうしてくれ」
茶器と残った膳を下げるため再び琴子が去ってすぐ。
「小十郎、どうするんだ?」
じ、っと期待のこもった目で成実が小十郎に問う。
「どうするも何も」
「…小十郎。今日はもう下がっていいぞ」
「政宗様…」
はぁ、と息をつく。
主君にまで言われてしまっては、仕方がない。
「ありがとうございます」
手をついて頭を下げ、小十郎は政宗の部屋を後にした。
「よし、政宗! 俺たちも後をつけよう!」
「ん? お前は小十郎の代わりに仕事をしてくれるんだろう?」
バッと立ち上がりかけた成実は政宗の言葉に盛大につんのめった。
「ま、まさむねぇ~」
情けない声に政宗は柔らかく笑った。
仕事がまだ残っているのが分かっていて小十郎が出て行くだなんて。
琴子と恋仲にならなければ、有り得ないことだった。
「仕方ない。小十郎の部屋に行きますか」
「ああ」
そうして二人笑いながら、散らかっているだろう小十郎の部屋へ向かった。
城下へ出てきた琴子はいつもの市場で野菜を物色していた。
「わ! 菜の花がいっぱい!」
「おぉ、嬢ちゃん! 今日は菜の花がお買い得だよ」
顔なじみの店主が籠ごと菜の花を差し出してくる。
「いただきます! あと、白葱と…平茸も」
「あいよー」
「おじさん、後で取りに来るから少し置かせてもらっても?」