第7章 横恋慕 ~片倉小十郎~
「はい」
「琴子、自分の分はどうした?」
「え…ご一緒してよろしいのですか?」
「そのつもりだった」
「あ! すまん、そうだよな、ちゃんと言わなきゃダメだったな」
「…伝言は今度から小十郎に頼むことにする」
「わわ、悪かったって!!」
眉を八の字にする政宗に成実は焦った様子を見せるので、琴子は少し申し訳ない気持ちになる。
「気にしなくていい。普通は同伴しないものだ。自分の膳を持って来なさい」
すぐに小十郎がそう言ってくれたので琴子はこくりと頷き、急いで炊事場へ向かった。
「…ん?」
その様子をじっと見ていた成実に気づいて小十郎は小首をかしげる。
「琴子は本当に小十郎が好きだよな」
「何を…」
「いや、小十郎が琴子を好きなんじゃないか」
「一体どうしたと言うんですか」
成実に続いて政宗までがそんなことを言い出すので、小十郎は面食らった。
「小十郎が声をかけたときの琴子の顔、見た?」
「見た。だが、その小十郎の顔も見た」
「もうさ、パッと花が咲いたみたいな」
「目尻が下がっていた」
「「春だ」なぁ」
うんうん、と二人頷く光景に小十郎はなんともむずかゆい気持ちになる。
政宗は主君とはいえ、年下二人にからかわれる日が来るとは。
「すみません。お待たせ致しました…!」
律儀に政宗の返事を襖の向こうで待つ琴子に、今度は小十郎が声をかけた。
四人分の膳を並べて、着席してみれば何だか成実はニヤニヤしているし、政宗はやけに神妙な顔つきをしてこちらを見ている。
何なのだろう、と隣の小十郎を見上げると困ったような顔をしている彼と目が合う。
「あの…私の顔に何かついているでしょうか」
「…いや、大丈夫だ」
「そうですか?」
よくわからないけれど、問題ないらしい。
琴子は三人が食べ始めるのを確認してから、自らも箸を取った。
成実と小十郎が主に話し、政宗がそれに答える。
琴子は三人の会話を聞くのが好きだった。
お互い幼少の頃から一緒に過ごしているので、戦がない穏やかなときは昔話に花が咲く。
だから話に交われなくともとても楽しい。
いつまでもこんな時間が続けばいいのに、といつも思っていた。