第1章 第一章
誰にも傷ついてほしくない。その感情は集団を率いる人間からしては厄介な感情であると主も理解している筈だ。
でも主はそれを一番大事にしていた。…なぜ。
「なぜってそりゃぁ…いんや、理由は無いね。まぁ強いて言うならお前らの一人でも欠ければこの本丸が成り立たなくなるからかな」
考えを見透かしたように主が言う。さすが現世で「すぱい」とやらをやっていただけはある。俺たちの考えなどお見通しなのだろう。しかし
「俺の心を読まないでくれ!!」
「おいおい、俺は心なんて読んでないぞ。それにだいたいお前は顔に出やすいんだよ」
「アンタ一回も振り替えってないじゃないか」
ボケ続ける主にツッコミを入れた瞬間、隣に寝ていた蛍丸が目を醒ました。
寝ぼけて、少し魂の抜けた顔は餅の様に丸く愛らしかった。
そして、薄い色の唇が動く。
「主…さん。山姥切さん。何を話してるの?」
その時一瞬、主の背がヤレヤレと言っている様に見えた。