第14章 傷ついたふくろう
見なければよかった。
心底そう思う。
視線を向けた先。
コートに戻っていく梟谷メンバーのなかに、兄の姿はなかった。監督とコーチの隣にあるパイプ椅子に座っている。
そこは、本来であればマネの席だ。
当の本人であるマネージャーさんは兄の包帯を交換中。恐らくは先日の傷口を保護しているのだろう。
幸いケガは軽く、プレーに支障のない程度だったと母から聞いた。しかし、閉じた傷口が開かないとも限らない。
そのための、処置。
それは分かってるんだけど。
兄が、優しく微笑むから。
見覚えのある笑顔だった。私に向けていてくれたはずの笑顔だった。他のひとには、あんな風に笑いかけたりしなかったのに。
「……意識的に、か」
私が嫉妬深いから。
私に気を遣って、他の女子生徒を避けるようにしてた。ただそれだけ。でも、もう、今となってはそれも必要ない。
途端に恥ずかしくなった。悔しくなった。苦しくなった。綺麗じゃない感情が渦を巻いて、ぐちゃぐちゃになって、喉をぎゅうっと締めつける。
そのときだ。
ふと、目に入った。
隣のコートで試合を終えたばかりの黒尾先輩。その、悲しそうな横顔。視線を向ける先は、私と、同じ。
優しく微笑む兄がそこにいる。
どうして、そんなに辛そうな顔──
ああ、そっか。
先輩も一緒なんだ。
傷ついた( )__fin.