第13章 穏やかじゃない
「あのさ、木葉、聞いてくれる?」
やけに澄んだ瞳だった。
琥珀のような黄金はたしかに燃えているのに、怖いほど、静かで。一点の曇りもなく、まっすぐに俺を見つめている。
「……お、おう」
そう答えるのが精一杯。
情けなくも裏返った声で返して、木兎の言葉のつづきを待った。
「俺さ、赤葦と話した、ちゃんと」
ぽつり。
ぽつり。
彼はひとつずつ語っていく。
赤葦の並々ならぬ想いを知ったこと。かおりちゃんと赤葦のポスターを見て、壁ごと殴ろうとして、でも殴れなかったこと。
「俺の手は、俺だけの手じゃないから」
エースの手。スパイクを打つ手。
愛すべきチームに点をもたらすための、大切な手なのだと、木兎は微笑みを携えてそう語る。
それから、かおりちゃんが音駒の黒尾と付き合いはじめたこと。それ以来、彼女とは喋ってないってことも教えてくれた。
彼は言う。
妹も、黒尾も、なにか考えあっての行動なのだろうと。そしてそれは恐らく、赤葦の一件が絡んでいるのだろうと。
木兎は木兎なりに考えてて、全部、理解した上で【変わる】決意をしたんだそうだ。
きっと脳味噌から煙出るくらい考えたんだろうな。偉いよ、お前。
「俺、もうやめんだ」
「……やめる?」
「五本の指はもうやめる」
力強い声音だった。
雑念なんて、まるでないように聞こえた。事実そうなのか。今の木兎に、迷いなんて、ひとつもない。
「三本でもねえ。決めたんだ、俺、全国で一番になる。お前らと!てっぺんとる!」
天変地異の前触れ、なんかじゃない。
これは紛れもなく、──梟谷排球部(おれたち)の世界がひっくり返った瞬間だった。
穏やかじゃない___fin.