第12章 いつか王子さまが
まさにシンデレラガールだ。
右も左も分からない素人が、いきなり主役に大抜擢。綺麗な衣装で着飾って。撮影機器に囲まれて。カメラに向かってポーズをとって。
手の甲にそっとキスを落とすのは、素敵な王子さま。
「赤葦だけど。残念なことに」
「その台詞、そのまま返すよ」
ほぼ唇を動かさずに罵りあう。
私たちは撮影が終わるまでの間、ずっと、この調子で嫌味のキャッチボールを続けた。
「それじゃあ、俺はこれで」
撮影を無事に終えて、現在。
赤葦は本来の姿に戻り、白いジャージを翻して去っていった。
その背中。兄よりやや細い。
毛先の跳ねた黒髮を追いかけて、意を決して、声をかける。
「……、……あの!」
「……なに?」
「私、赤葦のことが、苦手。でも、赤葦の言うことは合ってる、と思う。だから……お兄ちゃんのこと、よろしくお願いします」
彼は、なにも言わなかった。
ちょっと驚いたように目を丸くして、それから、フイと後ろを向いてしまう。
去っていく白い背中。
兄より少し低い身長。
微かに。本当に、微かに。
彼の声で「ありがとう」と聞こえた気がしたんだけど──
(……気のせいかな)
いつか王子さまが___fin.