第11章 クロネコとタンゴ
駅を背にして歩くこと数分。
都内某所。某大学。
伝統あるチャペルを有するキャンパスの正門前で、私は、彼と待ち合わせをしていた。
彼といっても【he】ではない。
世間一般でいうところの、ボウイフレンド、というやつである。ありていに言えば黒尾鉄朗だ。
先輩とは、あれから、なんだかんだで毎日連絡をとっていた。
日中はアプリでくだらないメッセージのやりとりをして、夜寝る前には電話でおはなしをする。
今日、一限なに?
数学です。最悪。
昼飯食いすぎた。
ああそうですか。
部活終わった。疲れた。
早く帰って寝ましょう。
お前さ、冷たくね?
別に普通ですけど。
じゃあ明日デートしようぜ。
じゃあの使い方がおかしい!
このような会話を経て冒頭に戻る。
私たちの関係はたしかに彼氏彼女だけれども、これはあくまで、兄と離れるための暫定的なお付き合いだ。
そんな私たちにデートとやらは必要なのか。甚だ疑問ではあるが、先輩の有無を言わさぬ【お誘い】に押し切られて、今に至るワケなのであった。