第9章 付き合ってみる
今、この人はなんて?
隣に座る彼が、黒尾先輩が、何を言ったのか理解するには随分と時間がかかった気がする。
「オイ、俺の話、聞いてる?」
ええ聞いてますとも。
ばっちり聞こえてるし、むしろ、先輩の言葉が脳内で何度も反復されてる。
『じゃあさ、俺にすれば?』
彼に連れられるがままやってきたカラオケ店。
薄暗く照明が落ちた室内。
L字型の、ソファの、隣。
手を伸ばせばすぐ届いてしまう距離に腰かける黒尾先輩は、間違いなくそう言ったのだ。
「は、え、いっ……ちょっと、仰ってる意味がわからないので」
私、トイレ行ってきます。
早口で言って立ち上がる。
「それさ、分からないんじゃなくて、分からない振りしてるだけだろ?」
逃がさねえぞ、こっち向け。
黒尾先輩に手首を掴まれた。
なんだって、この人は、私にそんなことを言うのか。つい、ほんの一分前まで、兄や赤葦との仲について相談に乗ってくれていたのに。