第2章 お兄ちゃんと私
私と兄には秘密がある。
誰にも言ってはいけない、ふたりだけの、秘密。
『かおり、内緒にできる?』
『うん……誰にも言わない』
豆電球が照らす薄暗い部屋のすみっこ。バレー選手のポスター。兄が着ている中学のジャージ。
そっと頬に触れる熱は、兄の、吐息と唇だった。
まだ小学生だった私には、その行為の意味がいまいち理解できなくて。
『ふふ、くすぐったい』
そう言って笑ったのを覚えている。
あれ以来、私たちの距離は以前よりたしかに近くなった。兄が試合でうまくいかなかった日。私が学校で悪口を言われた日。
お互いに辛いことがあると──
「かおり、……入っていい?」
「……うん。いいよ」
こうして互いの部屋を訪れる。
兄とそんな関係になってから、明日で、五年の月日が経とうとしていた。