第5章 狂いだす
「かおり、起きてるか」
兄の声が響いたのは、時計の針が真上で重なろうとする直前の、23:56のことだった。
布団に潜りこんで丸くなっていたが、慌てて起き上がる。
ぼさぼさの髪を手ぐしで整えて、それからドアに駆け寄ると、こちらから開ける前に勢いよく扉が開かれた。
「こ、たろ……お兄ちゃん」
目の前には仁王立ちの兄。
ああ、これは、あれだ。
怒ってる。それも凄く。
何かとてつもなく気に食わないことがあったらしい兄は、腕組みをして、高い位置から私を見下ろしていた。
怒鳴り散らしたりはしない。
感情的になったりもしない。
「かおり、お前、……俺に言わなきゃいけねえことがあるよな」
兄はその名と見目に恥じることなく、静かにキレるのだ。