第8章 自殺未遂
次の日光が珍しく遅れて学校に行くと、なにやら大騒ぎになっていた。英美が光を見つけ、光の腕を引っ張り屋上へと連れていく。その間に今の騒ぎを聞き、光はため息をつく。
騒ぎの理由は山本が飛び降りると騒いでいるからだ。屋上へとついても光の表情は変わらず冷たいもので。
「バカみたい………。山本なんかより苦労して傷ついてる人間なんか沢山いるのに、そんなくだらないことで死ぬなんて騒ぐとか………山本より頑張ってる人はどうなるんだろうね?」
嫌味たっぷりに言う言葉に英美は苦笑する。光の悪い癖で、例え人が目の前で死のうと殺されようとも冷たい言葉で相手の心を抉る。
光の性格を理解している英美でも未だに馴れないもので。だが、光の言葉も英美は理解できた。骨折ぐらいで何かが終わるわけでもないと光は遠回しに言ったのだろう。長年共にいる英美だからこそ気づいたことであって、他の人が聞けば理解はできないだろう。光の正論を黒スーツの赤ん坊が聞いていたなんて知らずに。
山本の自殺はツナが何とかするのでは無いかと思ったのは光の勘。昨日のツナと山本の様子を見てツナが何か言ってこうなったのではないかと判断したのだ。だからとツナが目の前に出てきて、山本に何かを言うのも興味がない光は英美の腕を掴み、屋上から去ろうとする。
「え、教室戻んの?」
「沢田が何とかするだろ、本読みたい」
光の言葉に呆れながらも英美は光の勘を信じて、屋上を二人で去った。その様子を赤ん坊が見ていたなんて誰も知らない。