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まあいいそうです。

第1章 まあいいそうです。


これはただの契約。
どんなにこの人の子を愛しいと思おうともそれはいわゆる雛の刷り込みのようなもの。
僕たちの存在する時間に比べれば10分の1以下の寿命しかない生命。さらにその中のわずかな時間を共有するだけの存在。
そんな取るに足らない存在に執着して、あまつさえ欲しいと思うなんて。そんな馬鹿な。
…そんな馬鹿な。
きっとこの感情は子供が親に、あるいは親が子に抱くもの。そうに決まってる。
だってこの子がいなければ自由に動かせる体も心も得られなかったわけだから。この解釈で間違っていないはずだよね。
間違っていないはずなのに…この焦燥感はどういう事なんだろう。この人の子を欲しいと思うなんて。連れ去って閉じ込めてしまいたいと思うなんて。
ああ、人の身の想いとはなんと厄介なことか。

「私の名前ね、ナマエっていうの。」
「………だ」
「光忠?」
「ダメじゃないか!名前を教えちゃ!これ…この感覚は真名だよね?!」

主…ナマエちゃんというらしい彼女は、僕の耳元で囁いた。彼女の自室に二人きりで、誰にも聞かれないはずの状況にも関わらずごく小さな声でその名前を教えてくれてしまった。

「教えてって言ったの光忠じゃない!なにこの理不尽…」
「ちょ…あー…僕以外には絶対に教えちゃダメ…だよ?」
「教える訳ないじゃん」
「…教えちゃまずいって言う事は知ってるんだね…」

確かに聞いたよ?キミの名前を知りたい。名前を呼びたいと。
でも真名を僕に…末席とはいえ神に掴まれることがどれだけ危険なことかきっと彼女はわかっていないんだろう。そうでなきゃこんなに簡単に教える訳がない。

「軽い気持ちで教えたわけじゃないよ。真名を知られたら魂を掴まれる。でしょ?心も体も魂も掴まれて神域に隠されたらもう人には戻れない。」
「知ってるんなら、なんで…」
「光忠を欲しいと思ったから。」
「!!!………今現在まさに僕はキミのものじゃないか。真名をくれなくても僕はキミの太刀だよ。」
「それだけじゃ足りない。いつ離れるかいつ死ぬかいつ折れるか。そんなものに怯えているのは嫌。」
「………。」

僕は信じられない気持ちで、彼女は受け入れろと脅すように、睨み合いの様相で見つめ合って数秒。
ふ。と彼女は溜息と共に視線をそらした。

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