第9章 儚い虹
「 まだ治療薬の見つかってない病気で
どうにか薬で命を繋いでいたのですが...
私たちの力が足りず...
助けられませんでした...!」
先生が話していくことが
すらすらと耳に入っていく。
このとき櫻井先生は
ただの "先生" だった。
親族に患者の死亡を伝えるような。
「 ... 医者としての
言葉なんていらねえから!
最後まで夫としていてあげろよ!」
気づいた時には声を上げていた。
熱い目で先生をグッと見て。
医者なのに病気で妻を亡くした。
先生の辛さなんて分かる訳もないけど
夫としていてあげて欲しかった。
血縁者でも友達でもない
夫という立場は
櫻井先生しかないんだから...
代わりたくても
代わってあげれないんだから。
「 すみません... 」
今まで耐えていたかのように
先生の涙が頬に一筋蔦った。
男ふたりで泣いた。
同じ人のことを想って。
「 いつから...
いつからは病気に... 」
「 事故で入院していたときに
診断して分かりました... 」
またその事実が胸をえぐる。
俺は何も知らなかった。
先生にあんな説教できる
立場でもなかったんだ。
何も知らなかった...
何も知らないまま...
「 なんで言わねえんだよ... 」
「 本人に告げた時から
二宮さんには黙っていてほしいと... 」
悲しみに紛れて怒りが湧いてきた。
に対してじゃない。
・・・自分にだ。
にとって俺は
病気のことも言えないような
そんな頼りない男... 親友だった...?
ふと、ある思いが脳裏に思い浮かんだ。
自分の愚かさに呆れた俺が
自分自身に囁いた。
自分をさらに追い込んだ。
その思いは俺への罰だと思った。
最低な俺への罰だと。