第14章 梅一輪 一輪ほどの あたたかさ ーシカマルー
ふわっと温かい風が吹いて、華やいだ香りがした。
「・・・・ああ」
縁側で爪を切っていたシカマルが顔を上げる。
「梅が咲いたんだな」
呟いた瞬間ぶわと強い風が来て、砂埃と白い花弁が数枚、シカマルを煽って空高く舞い上がって行く。
目を細めて見送るシカマルの顔に微笑が浮かんだ。
「春一番か。今年は早ェな・・・」
この冬は雪が少なく寒さも緩く過ごしやすかったが、それでも春の訪れは胸を弾ませる。
庭の梅を見やると、昨日は目につかなかった白い花がポコポコと愛らしい様で開いていた。
「・・・会いてェな・・・」
不意に呟いて、シカマルは自分にビックリした。
会いてえって誰によ?
梅と春一番に誘われて、らしくもなく感傷的になったかと苦笑したシカマルの脳裏に、先日のいのがドカンと降って来る。
シカマル、アンタはね、フェミニストってより、ロマンチスト!自覚しな!
でもこれ案外ポイント高い。
失敗したら目も当てられないけど、アンタには面倒臭がりって心強いツンデレ要素がある!頭もいい!これ大事!
ここらへん押さえて、ガンガンいっちゃいな!テマリさんはモテルよ、ありゃ。油断してたら誰かに持ってかれちゃうからね?
・・・・誰かに持ってかれたら問題あんのか・・・
今思い返しても齟齬を感じるいのの勢い。シカマルを置き去りに盛り上がるあの楽しげな様子は一体なんなのか。
確かにテマリは気になる。話して手応えがあり、やり取りに回転の早さが伺えて面白い。ぐっと来ることもある。
しかしシカマルは思う。
誰にだっていいとこはある。好きになれるポイントは、誰に対しても同じ訳じゃない。人の気持ちは単純なモンじゃねえから、答えが一つなんて事は有り得ねんだって。少なくとも、今の俺には有り得ねえ。
先回りして追い詰めんな。
例えば。
例えば今、あの開き出した梅の花影から、誰が顔を出しても俺はちょっと困る。よくわかんねぇけど、多分困るな。
いや、チョウジとかナルトとか、そういうオチの話じゃなくよ。
本当に、誰かが、あの白梅の傍らで笑いながらこのあったけぇ風に吹かれてたりしたら、好きとか嫌いとかじゃなくても見惚れちまう気がするな。
それがテマリだったり・・・いのだったりしたら、ちょっとマズい気がする。
俺の気持ちなんて、今はその程度のモンだ。