第45章 初仕事 ー飛段、角都ー
新年が明けた。目出度い正月も三日を越し、四日を過ぎ、いよいよ松の内も明けようかという五日。
「この寒さと雪で出歩くのは正気の沙汰じゃねえと思うのよ、俺は」
我と我が身をひしと抱き締め、飛段が情けない声を出す。
「近年まれにみる寒波だって話じゃねえかよ。出歩くんじゃねえってお天気お姉さんも言ってたぞ」
「そう。誰も出歩きたくない。結構なことだ」
腕組みして凍った窓の外を眺めていた角都が深く頷いた。
「誰もしたがらないことにこそ金儲けの勝機が潜んでいる」
「…おい。俺ぁもう現物支給の為に裸で走り回ったり爺さん婆さんと餅や蜜柑の取り合いすんのは真っ平だぞ」
「裸祭りはまだ先だ。それも今年は開催されるかどうか…」
「ああ。コロナ禍ってヤツ?」
「お前までそんなことを口にし始めるとは…非常事態もいよいよ極まってきたな」
「いよいよもクソもねえよ。とっくに非常事態だわ。不要不急の外出はぜってぇ駄目なんだかんな」
「不要でも不急でもないから問題ない」
「そらおめえにしてみりゃそうかも知んねえけどよ。まあちっと落ち着いてよ、金儲けは春まで待てって。稼ぎ急いで死にでもしてみろ、何にもなんねえぞぉ。何せ金は墓場までァ持ってけねえんだからよ」
「ふ。どいつもこいつも馬鹿なことを言う…。稼いだ金を遺して死ぬ俺だと思うか?」
「ふん?死ぬ前にぱっと使うってか?はー、おめえらしくもねえこと言っちゃって、コロナ禍で価値観とかってのが変わっちまったのかぁ?まぁ、そういうことなら俺も盛大に手伝ってやるぜ。死に際の大散財なんてなァ景気いいじゃねえか。好きだぜ、そういうのァ」
「馬鹿め。誰にものを言っている。死ぬ間際だろうが生れたてだろうが俺という守銭奴が無駄遣いなどする道理があると思うか」
「いや、おめえの道理なんか知らねえけどよ。したらどうすんだよ、溜め込んだ金はよ」
「お前の心配することではない」
「うん、まあそりゃそうだけどな。どうだっていいよ、俺だって」
「…そう言われるとちらっと腹が立つのは何故だ…」
「ちらっとは俺ンことが好きだからじゃねえかなぁ」
「ははは。馬鹿め。死ね」
「ちょっとちょっとおじいちゃん」
「ああ、悪いな。お前があまり馬鹿馬鹿しいことを言うから口の戸の蝶遣いがいきなり緩んだ」
「年で口元が緩まってんじゃねえのぉ?」