第36章 迷路で迷子 ー路地裏イチャイチャinリー&テンテン
もっと言ったら、何故だか素直に手をとってみてもいい気がしていた。修行修行で荒れて堅くなったリーの手を。
「それにしても本当にここ、何処なんでしょうね」
迷い勝ちにちょっと上がったテンテンの手をぱしっと握って、リーが改めて周りを見回した。
「本当に何にも考えないで走ってたんだねえ…」
「何せ相手の足が速かったもので」
テンテンを引き起こしたリーの口がへの字になる。
「つい夢中になってしまいました」
「まあ…猫は足が速いって決まってるからね」
くすぐったい気持ちでリーが手を握るのに任せながら、テンテンは我知らず顔を、ほんのちょっとだけ赤らめた。自分でも気が付かないくらい、ほんのちょっと。
「可哀想に、うちへ帰れなくて怯えているんでしょうね…」
何の疑いもなく気の毒そうなリーにテンテンは苦笑いした。
「知らない相手に出会い頭でロケットダッシュされたらアタシだって怯えて逃げるわ」
「兎に角、一刻も早く飼い主さんのところへ帰してあげたいです」
「なら今度はもっと静かに近付かないと」
「頑張ります!」
…だからその勢いがさ…。
「先ずはここから出ましょう。迷路みたいですね、この路地裏は」
「そうね。迷路みたいね」
本当は帰り道を知っている。けれど、もう少しこうしてゆっくり歩いていたかった。だから、テンテンは口を噤む。
自分のこんな気持ちがよくわからない。結論付けようとして深く考えると、それこそ迷路に迷い混んだように思考が混沌となる。
「本当に迷路みたいだ」
呟いたテンテンをいつも真っ直ぐな団栗眼が捉える。
「大丈夫ですよ。出口のない迷路なんかないですから」
「…迷いっぱなしで出て来れない人がいるだけでね」
「安心して下さい。テンテンをそんな目にあわせたりしませんよ」
よく言うよ。
テンテンは朗らかに笑った。
そんな目にあわせないどころかそんな目にあわせっぱなしのくせに。
でもリーと一緒なら悪くないかな。リーの一生懸命はいつだって誰より何より一番だから、そんなヤツと一緒に歩けたら気持ちがいい。
これって憎からずって言う?
違うか。
どうなんだろうね。