第36章 迷路で迷子 ー路地裏イチャイチャinリー&テンテン
速い速い。普通ならとても追い付けるもんじゃない。
変な全身タイツ姿で前を走る一見華奢な背中を必死で追いながらテンテンはにやりと笑った。
そう。普通なら。
でもテンテンは普通じゃない。前を走る体力馬鹿とその体力馬鹿を育てた超体力馬鹿と、更には里で知らぬ者なしの天才馬鹿と毎日一緒にいるのだ。もう何年も。
「テンテン!悪いお知らせがあります!」
ロック・体力馬鹿・リーが振り返って声を張った。
「何!?」
釣られて大声で応えると、更に大きな声が返って来る。
「目標を見失いました!」
「ええ!?」
じゃあ何だってそんな確信に満ちて全力疾走しているのだ。
「何処で!?」
「わかりません!」
「馬鹿者ー!!!」
「テンテン!!」
「今度は何だ!!!」
「道に迷いました!!」
「馬鹿ー!!!」
叫んだ瞬間、立ち止まった背中に思いきりよくぶつかった。
「困りました。ここは何処です?わかりますか、テンテン」
真顔で振り向いたリーにテンテンは痛む鼻を押さえて崩折れた。
「…つ…疲れた…」
「疲れた?珍しいですね。大丈夫ですか?」
栗鼠が見たら飛び掛かりそうなくらいに見事な団栗眼がぱちぱち瞬く。
「具合でも悪いんですか?」
「具合が悪くなくても疲れる事だってあるの!」
見慣れない路地裏を見回してゲッソリと言うと、リーが背中を見せて目の前にしゃがみ込んだ。
「疲れているならおんぶしますよ」
テンテンは苦笑いしてその背中をパンと叩いた。
「いいよ。そんな真に受けなくて」
喉元に引っ掛かっていた誰のせいで疲れたと思ってんのよの一言が、すとんと腹に落ちた。憎めないヤツだと思う。こういうの憎からずって言う?
ふ。言わないか。
「そうですか」
リーは素直に頷くと、立ち上がって今度は手を差し出した。
「じゃあ手を引きます」
「は?」
冗談でしょ?子供じゃあるまいし恥ずかしい。
そう言ったら、リーはにっこり笑った。
「大丈夫ですよ。こんな路地裏に誰も来ないでしょうから。誰にも見られません。テンテンが人に知られるのが厭なら、僕とテンテンの秘密にしましょう」
疲れたのは体じゃなくていつものようにリーの勢いに振り回された気持ちの方なんだけれど、説明するのが面倒臭くなった。それに説明してもやっぱりいつものように通じない気がする。