第35章 海へ来たらば ー暁with黒の教団ー
「…五百両じゃまかってないわよ…。いよいよ馬鹿ね、角都。大体いい加減イカで腹一杯なのよ、こっちは」
「まあ三杯も食えばな。そりゃそうだろう」
「晩ご飯のペース配分もしておかないとね」
「怠りないな」
「ふん。何を今更」
バカでかいサングラスをクッと上げて、小南は沖を眺めて目を細めた。
「可哀相なペイン。誰も助けに行かないのね…」
「……まぁお前が汐田の水着を紙にしちゃったからな」
「本当に可哀相」
「……ならお前が助けに行ったらどうだ?」
「私の水着も紙だって言ってるでしょ?全くまるきり話のわからない爺さんね、角都」
ふうと溜め息をついて、小南は沖から目を逸した。
「何でこんな事になっちゃったのかしら…」
「…何もかもお前のせいだと思うぞ」
「…何言ってんだか、このクソジジイは…」
「…お前さっきからずっとあからさまに喧嘩を売り過ぎだぞ。幾ら倹約家な俺でもそろそろ財布の口を開いて喧嘩を買わないでもない感じになって来たな」
「喧嘩に関したらアナタは浪費家でしょ。短気なくせに何言ってんだか。あー、腹痛ぇ。笑えるぅ」
「…………頭に来るな、小南」
「頭に来るのが厭ならもいじゃいなさいよ、そんな頭。面倒が減るわよ」
「お前というやつは…ペインが凄く気の毒になって来たな…」
「なら助けに行ったら?」
「駄目だ。イカが焦げる」
「…可哀相なペイン…」
「ああ、全くだ。可哀相だ」
クーラーボックスから麦茶を出して煽りながら、フと角都が辺りを見回した。
「そう言えば海産物コンビが見えないな」
「鮫と牡蠣なら水着の話が始まった辺りで消えたわよ。貧相な牡蠣の身をとばっちりで晒されたくなかったんじゃない?」
「貧相な牡蠣の身…」
「特に夏場の牡蠣は身が痩せるから。まぁここらは山の伏流水のお陰で夏場も牡蠣が美味しいらしいから、夕飯が楽しみね」
「…何の話だ?」
「?牡蠣の話でしょ?」
「…俺はもうお前と話すのは止めようと思う」
「そう?望むところよスットコドッコイ。黙ってイカを焼いてなさい」
「…鼻紙女め」
「何!?何つった今!?あぁ!?」
「…何も…」
「ふん!!」