第32章 裸祭り ー角都、飛段ー
「寒ィ寒ィ寒ィ寒ィさーむーいィィィーー!!!!」
ドサドサと雪の降り積む厳寒の北国。何故か北国。どうしてか北国。
褌一丁の飛段が我を我で抱き締めて、ガチガチと歯を鳴らしながら絶叫する。
「寒くて当たり前だ。今年は寒さの当たり年だからな」
同じく褌一丁の角都が綿飴みたような真白い息をぼうぼう吐きながら淡々と言う。
「……おい。何でオメーはそんなに平気そうなんだ。褌にカイロでも仕込んでんのか?玉が焼けても知らねえぞ」
ガタガタ震えながら疑念の目を向ける飛段に、角都は冷たい一瞥をくれて腕を組んだ。
「馬鹿か。幾つになっても男は男。玉はその男の命だぞ。誰がカイロで低温火傷などさせるか。精子を大損しかねない危険を侵すようなヤツは男ではない」
「じゃあ何よ、その姿勢の良さは。…あれ、まさか呑んだ?呑んじゃったのか!?カイロ!?内側からあったまろうとか思っちゃった!?ダメダメダメだ、それダメなヤツ!死ぬよ、じいちゃん!?ヤバイよ、それ!」
「…この年まで生きて誰がわざわざカイロなんか呑むんだ。馬鹿過ぎる。長い人生のとどめをカイロなんかに刺されてたまるか。ただでさえ寒くて苛ついているのに下らない事を言って俺を煩わせるな。ブッ殺すぞ」
「あ、やっぱ寒ィんだ。げっはー、何か安心したぜ。寒くて良かったな、角都!まだ生きてるって証拠だからな!」
「…ブッ殺すぞ?」
「うるせぇな。いっそ死にてえくれだっつの、こんな寒くちゃよ!死なねえけどな!げははははは!」
「死ねれば良かったのに残念だな。改宗したらどうだ?楽になるぞ。俺も含めて」
「改宗?ありえねぇなー。俺ァ生きてる限りジャシン様一筋だからよ」
「そうか。死ぬ気はないのか。全生態系が肩を落とすコメントだな。俺も含めて」
「げはははは!そうか?そんな感動させちまったかよ。なら角都、どうだオメーもジャシ…」
「断る」
「相変わらず早ェな、断んの。ワンクッションおけっつの」
「お前にしろジャシンにしろ得にならない話に付け入る隙を与える気はない」
「またまた。得するかも知んねぇよ?死なねぇし」
「今のところ心臓五個で間に合っている。その内の幾つが今日心停止するかわからんが」
「寒ィし年だし全部止まんじゃねぇの?」
「その時は不本意だが迷わずお前の心臓を繋ぎにするつもりだ」