第29章 わがまま兄さんーイタチ、鬼鮫ー
因果な業を負ったのは自ら望んだ事だ。
大切なものをこそ顧みない。そう装い、周りを欺く事を自らに架して目を眇めて生きる事を選んだ。
見ると決めたもの以外に目を盗られるまい。見ると決めたものを目に映す事はすまい。全て胸の内に収める。
深く沈み、ただ広く見、穿つ様に叶える。
そう決めて吾が手を赤く染めた俺が迎えた何度目かの晩秋。
日常は霧散し、非日常が常態になった。とは言え、己を偽る点に於いては、むしろ気が楽になったと思える。
蠢く心の疼きに蓋をするのは容易だった。そもそももう何年もそうして努めて来たのだから。
「イタチさん。あなた何だってそう悪天候に好んで表に居たがるんです」
任務の相方である鬼鮫は賢しく慇懃無礼で、血を見るのを躊躇しない男だ。これと認めた者以外は相手にしない身勝手さも、目的の為にも手段を選ばない残忍さも、しかしどこか裏寒い。捨て切れぬ何某かの未練を引き摺っているからだろう。それが何かは知らないし、知る必要もない。
暁という組織は自分も含め、そうした者が集まっている気がする。
皆強い。
皆、弱い。
「お身体に障りますよ」
篠つく雨は冬の冷たさ。また季節が巡る。
……風邪など引いてないだろうか。
あまりに凡庸な思いが胸を過ぎって、自嘲が苦く拡がった。
今のアイツに風邪の心配など……。
いや、もしかして引いているかも知れない。俺自身先日熱を出し、それを知られたくないばかりに随分無理をしてふらふらになりながら数日過ごしたばかりだ。周りには完全にバレていたような気がするが、誰も何も言って来なかったからよしとしよう。
気の毒そうな飛段の顔も呆れたような鬼鮫の視線も、やたら卵酒を勧めてきたペインもわざとあちこちに風邪薬を落として歩いていたデイダラも、生姜を一キロ買って来た小南も暁だって保険は利くから安心しろなんて話を振って来た角都も、バカは風邪引かねえ筈だがななんて呟いてたサソリも皆気のせいだ。
俺は風邪など引いていない。ちょっと体温が上がって腹を下し、関節が痛くて動き辛かっただけだ。
……サスケは風邪をひいたらちゃんと療養するだろうか…。いや、しない。しないだろうな。むしろ表で水垢離なんか始めそうな…え、寒中水泳!?そっち!?駄目だ駄目だ、止めるんだ!お兄ちゃん絶対許しませんよ!?肺炎でも起こしたらどうするんだ、サスケェ!!