第26章 世界禁煙デー
5月31日。
「牡蠣殻さん、今日は何の日かご存知ですか」
「おや、いけませんね、干柿さん。日付けを忘れるのはよろしくない兆候ですよ」
「…私は今日が何日かと聞いたのではなく、何の日かと聞いたのです。あなたは一体何時になったら人の話をまともに聞けるようになるんです?私は何時まで同じ事を言い続ければいいんです?」
「何をそんな深刻に…。なら言わなきゃいいじゃないで…づッ、ちょ、干柿さん!?鼻を力任せに弾くのは止めて下さ…ががッ!ぁだ、だ、ちょっと!?止めて下さいよ!?」
「今日は何の日です?」
「…わかりましたよ。言わせたいんですね。世界禁煙デーです。はい。禁煙デー」
「あなたが今ふかしているのは今日何本目ですか」
「そんないちいち数えませんよ」
「十八本目です」
「うわ、ちょっと干柿さん。止めて下さいよ、そういうの。怖いですよ」
「今日はもう吸わない方がいいですよ」
「…十八本見過ごしておいて何を今更」
「放っておけば何本吸うのかと思ったんですがね」
「なら最後まで見届けたらばいいじゃないですか。ね」
「…今日という日が何の日か知っていながらその様なんですか、あなたは」
「だって関係ないですから。大体何ですか、世界禁煙デーって。誰が決めたんです?」
「世界が決めたんですよ」
「またまた」
「それに私が決めました。今日はもう煙草は禁止です」
「…何で貴方がそんな事決めるんですよ」
「煙草臭いあなたは嫌いではありませんが、煙草抜きのあなたの匂いも悪くないと思いますよ」
「…何それ。やですよ」
「…でしょうね。思った通り言うだけ無駄でした。それにしても牡蠣殻さん。ここ迄それなりに長い付き合いですが、本当にもう少し何とかなりませんかね、あなたのそういうところ」
「そんな事言い出すなら私だって言いたい事いっぱいありますよ」
「知りませんよ、あなたの言い分なんか」
「でしょう?この件に関しちゃ私も全く同様で…」
「あなたが体を損なって死にでもしたら、私はどうしたらいいんです」
「…は?」
「は?って何ですか。答えになってませんよ。私は、どうしたら、いいんです?」
「どうって…なるようになるんじゃないですか?何言ってんですか、貴方は」
「…あなた、ホンットにもう少し何とかなりませんか。開いた口が塞がりませんよ、全く…」