第25章 磯 其の三
「…さぁ、今日はもうお帰りなさい。また明日」
先生に促されて、私は波平の手をとって歩き出した。俯く牡蠣殻の傍らで立ち止まり、そのほっぺたをちょんと突く。
「…ねぇ、でも私はあなたと親しくなれたらいいと思うんだけど」
牡蠣殻が顔を上げて、先生は驚いたように私を見た。波平が息を詰めているのがわかる。
私はにっこり笑って、寄る辺ない迷子の目を向けて来る牡蠣殻に頷いて見せた。
「あなたと、お友達になりたいの」
牡蠣殻が目を見張った。
「…友達…。…私と…?」
寂しいのね。大丈夫。友達になりましょう。
戸惑いながら笑い返す牡蠣殻に、私は胸がキュンとなる。可愛い。頼りない様子が切なくて、抱きしめてあげたくなる。
親しくしていて悪い事はない気がする。
このコには何かがある。よしんば何もなくとも、このコは功者。しかも恐らく、とても功者らしい功者。
頭がクルクルと思考を紡ぐ糸車を回し始める。
「そう。どうかしら?」
屈んで目線を合わせ優しく言ったらば、牡蠣殻が真っ直ぐ裏表ない、心をそのまま投げ出したような笑顔を浮かべた。
ああ、可愛い。
私、このコが好きだわ。
色々と、好きだわ。