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閑話休題?ーNARUTOー

第21章 磯 其の二


暑い

暑いのは苦手だ。

ついでに言えば書類仕事も苦手だ。座っているのは苦でないが、座っていなければならないとなると、これがとんでもない苦行に化ける。

牡蠣殻は卓についた肘に頬をのせ、行儀悪く苛々と筆を運んだ。
傍らで同じように公務に励んでいる筈の波平は不在だ。長老連に呼び出されて席を外している。

波平の補佐を務めるようになって、牡蠣殻は自分が磯をよくわかっていなかった事を知った。
長老連の影響力の強さもよくわかっていなかった事のひとつだ。長老連と名乗っても、中身は中年から老年の四人組だ。四つの師族から一人ずつ、先代で廃された決まり事だが代々そうして里長を支える者を各師族が取り決めて務めさせて来た。

ひと時代前の遺物のような名ばかりの連と思っていたが、これが事ある毎に波平のやりように口を出して来る。そしてまた、産まれた時からの付き合いである彼らに波平は頭が上がらない。のらりくらりと躱しながら、無視しきる事も出来ずにいる。

しかしまあ、一番意外だったのが私の嫌われようですね。蛇蠍の如く嫌われるとは正にこの事。身を以て知る羽目になるとは思いもよりませんでしたよ。

「ハハ・・・」

カラカラに乾いた笑いを溢して、牡蠣殻は処理し終えた書類を揃えて文箱に収めた。

蛇も蠍も嫌いではない。牡蠣殻が嫌いなのは過干渉して来る人間だ。やれだのやるなだの悪意だろうが善意だろうが、やいやい言われるのが一番辟易する。
深水を慕っても身近く居られないだろうと思うのはだからだ。
忌血を持つ立場上避けられ遠回しに見られる事も多かった上、幼いうちから親から離れて独りだった牡蠣殻は、その分気儘に好きにして来た面が多分にある。自分勝手と弁えても、見に染み付いた気儘さは抜ける事がない。

波平様は偉い。私なら半日で廃人になる。きっとなる。必ずなる。間違いなくなる。流石人の上に立つ人は器が違います。よく逃げもせずに務めている事・・・

昼行灯と評されてはいるが、あれも彼なりの処世術なのかも知れない。幼い頃から気付くと側にいた空気のような存在だが、改めて身近く接するとこれもまた今まで知らなかった波平が見えてくる。自分と同じ逃げ上手と思っていたが、違っていた。

「・・・私だけが駄目なんだなあ・・・・・」

 呟いて筆を投げ出したらば、ゴソリと天幕が擦れる音がした。
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