【100プリ】 消えない過去と生きる今(ルイとのお話)
第14章 名付けることのできない気持ち
――・・・そして翌日。
私とルイは最後の挨拶をするために、
ゼノ様の執務室を訪れていた。
静かな沈黙の中、
ルイがすっと前に歩み出る。
ルイ「今回は有意義な場を設けられたこと、感謝している」
ゼノ「・・・ああ、これはこちらの言葉だ。それに・・・」
見透かすようなゼノ様の瞳が、
ゆっくり私に向けられる。
(・・・?)
ゼノ様は腕を組みかえると、
ゆっくりと口を開いた。
ゼノ「プリンセス、とっさの明瞭な判断に助けられた。礼を言おう」
思いがけない言葉に
頭を下げて再び視線を戻すと、
ゼノ様の瞳の色が
いっそう柔らかくなる。
ゼノ「・・・借りは返す主義だ」
「・・・・・・それは」
ゼノ「困った時は、力になろう」
「・・・ありがとうございます」
再び頭を下げて
ゼノ様に微笑み返すと、
盛大な咳払いが聞こえた。
アルバート「ウィスタリアのプリンセス。あちらで、メイドがあなたに用があると」
「・・・私に・・・?」
ルイ「・・・先に行ってて」
ルイの言葉にそっと頷き、
ゼノ様に向き直る。
「またお会いできる日を、楽しみにしています」
ゼノ「ああ、また」
零がアルバートと共に出て行くと、
ゼノはルイの顔を見つめて
唇に笑みを乗せた。
ゼノ「プリンセス選定式の日・・・正直、期待などしていなかった」
ゼノは何かを思い出すように
どこかを見つめながら、
言葉を重ねていく。
ゼノ「古くから伝わるウィスタリアの伝統的なしきたりだが・・・期間限定といえど、ガラスの靴でプリンセスを決めるのは安易だと」
ルイ「・・・ああ」
ゼノ「だが、あのガラスの靴には人を選ぶ力があるようだ」
ルイが視線だけで尋ねると、
ゼノは息をついて微笑んだ。
ゼノ「・・・良いプリンセスを選んだな」
ルイ「・・・・・・」
ルイはその言葉を
受け止めるような表情を浮かべると、
会釈をしてゼノに背を向ける。
扉を閉めると、
ルイはポケットから
白い花のコサージュを取り出した。