第6章 あとどのくらいで、君の瞳に映れるのか
「…ごめん」
アクアから謝罪の言葉を聞くなんて珍しい。
だが今は全くそんな事はどうでも良くて、ゆっくりとアクアをベッドに下ろした。そして備え付けの冷蔵庫から氷と水を取り出し、洗面器の中に入れ、それにタオルを濡らしてアクアの額に乗せる。
「お前、ただの風邪か?」
「…」
アクアは答えようとしない。
おれは外科医とは言えど医者だ。ただの風邪かどうかなんて見れば判る。計らなくても分かる程の高熱、異常だ。
だがここまで頑なに答えようとしないアクアに、今は無理をさせるべきではない。
「とりあえず寝ろ。起きたら話せ」
「…わかった」
不本意に言わされた事を不服に思っているのだろうが、彼女はそれに返す事も出来ないくらい、弱っているようで。
ゆっくりと目を閉じたアクアからすぐに寝息が聞こえてきた。
一体彼女の身に何が起こっているのか。おれはこの時、この異常な症状をそこまで重く考えなかった事を後悔する事になる。
何か、サイレンのようなものが聞こえた気がした。