第4章 特別な感情2
「じゃあ、俺は先に出るから。後始末よろしくな」
「…あの、白水先生」
ティッシュで汚れたところを拭いていた山崎が手を止め、俺を呼び止める。
やる事もやったし、さっさと戻りたかったが、いつもの笑みを浮かべながら視線を山崎へ向けた。
「なんだ?」
「あの…俺のこと…名前で呼んで貰っていいですか?」
うわ、ウザッ…。
「…あぁ、そうだな。けど二人っきりの時だけな?他の人に変に思われたらお互い大変だし」
「…そう、ですね」
腑に落ちないような顔をされ少しイラッとくる。けどここで駄々をこねられても面倒だ。
心の中でため息をつく。踵を返し、山崎の傍に寄り額に軽く口付けをすると、驚き大きく開いた瞳が俺を見上げる。
「二人だけの秘密にしような、退」
そう囁けば、山崎は照れ臭そうに頬を染め笑みを作る。
「はい。…八雲先生」
山崎の頭をくしゃりと撫で、俺はよくやく資料室を後にした。