第19章 なんてことはない
「…結婚、おめでとう」
彼は柔らかな笑みを浮かべて小さく頷いた。
「あぁ、ありがと」
「まさか、お前に先を越されるとは思いもしなかったよ」
「お互いもういい歳だろ。お前こそ、早く相手見つけねーと一生孤独だぞ?」
「言ってくれるねぇ」
お互い軽口を叩き笑い合った。
銀八は、結婚する。相手の女性は優しくとても女性らしい人だという。彼がその女性を助けたのがきっかけだと、照れながら言っていたっけ。
俺としても祝福している。同僚がめでたく結婚するんだ。喜んで当然の話だ。
「んじゃ、俺行くわ。今日は早く帰れって言われてるし」
「なんだ、もう尻に敷かれているのか?」
「うっせー」
からかいの言葉に銀八は肩を揺らして笑った。煙草を咥えたまま、引き戸へと向かう。