【ハイキュー!!短編集】Step by Step!
第5章 不器用な恋【田中龍之介】
「気になる?」
「えっ、あ、はい…!私、ずっと文化部だったからなんか新鮮で…」
「良かったら、中で見てみる?」
「えっ、いいんですか…!?」
「うん。あなたがいた方があいつらのプレッシャーにもなるだろうし」
そう言って、その潔子さんはニコリと笑った。
「プ、プレッシャー、ですか…!?」
「試合では観客にも見られるから、今のうち慣れておかないとね」
「そういうものなんですか…」
「うん。主将には私から伝えとくから」
「じゃあお言葉に甘えて…」と靴を脱ぎ始めたところで、着替えから戻ってきた龍之介が大声を上げた。
「あーーーっ!みなみお前っ、何勝手に体育館入ろうとしてんだよ!!」
「か、勝手にじゃないわよ!」
「私が誘ったの」
潔子さんがそう言うと、龍之介は急にしゅん、と大人しくなった。まるで鶴の一声みたいだ。
「き、潔子さんがっ…!?いやいや、いくら潔子さんでも…他のヤツらの邪魔になるし…」
「いいじゃない、別に。田中の知り合いなんでしょ?」
「そ、そうっすけど…まぁ、潔子さんがそうおっしゃるなら…」
「ボールが飛んできて危ないから、そっちの隅っこにいてね」
「ありがとうございます!」
「おい、みなみっ!潔子さんのご迷惑にならないように気を付けろよ!」
「分かってるわよ!」
私は「ベーっ」と舌を出す。複雑そうな顔で龍之介はチームメイトたちの元へ向かった。
運動部の見学なんて初めてで、私はワクワクしながら体育館の隅に移動した。潔子さんが用意してくれたパイプ椅子に腰掛ける。
「なぁなぁ、あの子、田中の知り合い?」
「ただの幼なじみっすよ!授業のノート借りる代わりに見学させろって話になったんス」
「なんだよ、カノジョかぁ!?」
「ち、違いますよ!」
「田中にも女子と仲良くなるスキルがあったんだなぁ」
「なんだと木下コラッ!!」
龍之介は、クラスにいる時も部活の時もあんまり変わらないらしい。チームメイトにあおられて、今にも暴れだしそうになっている。
何やってるんだか…。これじゃ私、授業参観に来た保護者みたいじゃない…。
やれやれ、と私は大きくため息をついた。