【ハイキュー!!短編集】Step by Step!
第5章 不器用な恋【田中龍之介】
体育館の中では、既に数人の部員たちが各自ウォーミングアップを始めていた。
でもその中に龍之介の姿はない。
どうしよう…もしかして、入れ違いで教室に取りに戻っちゃったかなぁ…。
中に入ろうかどうか迷っていると、急に後ろから声をかけられた。
「バレー部に何か用ですか?」
振り向くと、そこには黒髪の美少女が立っていた。涼しげな顔でこちらを見つめ、小首を傾げている。
私はうっかり見とれてしまっていた事に気付き、慌てて答えた。
「あのっ、えっと…龍之介…!田中龍之介にジャージを届けに来ました…!」
「田中?」
その時、ドタドタと騒がしい足音が聞こえた。目の前の美少女は音のする方をチラリと見て、呆れ顔で小さくため息をつく。
その視線を追った先に、すごい勢いでこちらに走ってくる龍之介がいた。
「潔子さーーーん!!今日も相変わらず美し…ゲッ!!みなみ!!なんでお前がいるんだよ!!」
「ゲッ、とはなによ、ゲッとは!!せっかくジャージ届けに来てあげたのにっ!!」
「おおぉっ、俺のジャージ!やっぱ教室に忘れとったんか〜。マジ助かった!」
「着替えてくる!」と言って私からカバンを奪い取り、龍之介は再び猛ダッシュで部室棟の方へ走り去ってしまった。
「…まったくもう、ホント、嵐みたいなヤツ」
独り言のつもりだったのに、“潔子さん”と呼ばれた美少女はしっかりと聞いていたようで、クスクスと声を立てて笑っている。
「ふふふ、ほんと、嵐みたい」
「あはは、ですよね!じゃあ、お邪魔しました!」
「ううん。わざわざありがとう」
ペコリと頭を下げて帰ろうとした時、体育館からボールの跳ねる音が聞こえてきた。
さっきまで柔軟体操をしていた部員たちが、今度はボールで練習を始めていた。
フワリと上がったボールに勢い良く腕が振り下ろされ、すごいスピードで床に叩きつけられる。
「わぁ…!スゴイ…!!」
迫力のあるスパイクに、私は思わず声を上げてしまった。入り口のそばで練習の様子を眺めていると、潔子さんが声をかけてくれた。