【ハイキュー!!短編集】Step by Step!
第5章 不器用な恋【田中龍之介】
「…じゃあ見せてもらおうかな!」
「へっ…!?」
「だから、部活してるとこ見に行ってあげる。私を惚れさせてくれるんでしょ?」
期待していた答えと違ったのか、龍之介は目を丸くした。さっきまでの威勢はどこへ行ったのか、何故かあたふたと慌てだす。…本当に忙しいヤツ。
「いやいやいや、待て待て待て…!」
「なによ、そっちが言ったんじゃない」
「それとこれとは話がちげーよっ!」
「どこが違うのよ」
「部外者を見学に連れてくわけにはいかねーよ。…とゆーか大地さんが何て言うか…」
「いーじゃん、見学するくらい」
しばらく「うーん」と考え込んでいたけど、龍之介は顔を赤くして立ち上がった。
「…いーや、やっぱダメだ!!」
「なによっ、龍之介のケチ!」
「い、今がイッチバン大事な時期なんだよ!それをお前、遊び半分で他のヤツらの邪魔するわけにはいかねーだろ…!」
「ふーんだ、いいもん!じゃあその代わりスイーツ三倍おごりね!」
「うぐっ…」
ホントは部活見学なんて行くつもりはなかったけど、龍之介は本気で慌てている。
「いいな!絶対来んなよ!」と捨て台詞を残して、さっさと昼ご飯を買いに行ってしまった。
いつも龍之介より私の方が一枚うわてなのだ。
放課後、帰りのホームルームが終わると同時に、クラスの誰より早く龍之介は教室を飛び出して部活に行ってしまった。
授業はあんなにだるそうに受けてるくせに、と呆れていると、空いた机の横に見慣れたバッグが掛かったままなのを見つける。部活の時、いつも龍之介が持ち歩いているバッグだ。
“排球部”という白抜きの文字がのぞいている。
「あのバカ…ジャージ忘れてるじゃない…」
少し迷ったけど、私は届けてあげることにした。
あれだけ来るなと言われて顔を出したら、龍之介きっとびっくりするだろうな…。
驚く顔を想像してわくわくしながら、私はバレー部のいる第二体育館に向かった。