【ハイキュー!!短編集】Step by Step!
第5章 不器用な恋【田中龍之介】
(一ヶ月前)
「すまん、みなみ!さっきの古典と、あと一限の日本史のノート貸してくれっ!」
目の前でパン、と両手を合わせ、拝むように龍之介は頭を下げた。これと同じやり取りがここ数日続いていて、私はいい加減うんざりしている。
「またぁ?あんた最近、授業中寝てばっかじゃん」
「最近朝練がハードでよ…、寝不足なんだよ」
そう言って龍之介は私の隣にどかっと腰を下ろし、大きなあくびをした。
「へぇー、バレー部忙しいんだ…」
目元にうっすらとクマができている。そういえば、大会が近いんだっけ、とちょっと同情してしまう。
「…じゃあ頑張る龍之介クンに免じて、ノート貸してあげる」
「おぉっ、サンキュー!」
「ただし…」
私は差し出したノートをひょいと引っ込めた。
「今度スイーツおごってよね!」
「うっ…わ、分かった…」
しぶしぶノートを受け取って、「女子は好きだよな、そういうの」とかブツブツ文句を言っている。
「…そんで、どうなの?バレーの方は。もうすぐ大会なんでしょ?」
話題を変えると、龍之介は興奮気味に身を乗り出した。
「おう、すげーぞ今年は!上手い1年が入ってきてよ、まぁ俺様にはまだまだ敵わねーけど!ワハハハ!」
「龍之介調子乗りすぎ!そんなことばっか言ってると、そのうち一年に抜かされちゃうよ」
「なっ…お前俺のプレー見たことねーくせに偉そうなことを…!」
「見たことあるよ。小学生の時のバレークラブで!」
「あの時と一緒にすんなっての!」
そう言って龍之介は腕を組み、ニヤリと笑って見せた。
「お前、俺様の華麗な超絶スパイク見たら惚れるぞ、マジで!」
「ふーん…」
いつものようにスルーしようかと思ったけど、龍之介のこの得意気な顔を見たら、イジワルしてみたくなってしまう。