【ハイキュー!!短編集】Step by Step!
第3章 Time goes by【菅原孝支】
突然の雨に降られて、俺達は遠くに見えるバス停まで走った。
バス停の屋根の下で、上がった呼吸を整える。
この時間だからか、通りを歩く人も見かけない。二人だけの夜だ。
「くしゅんっ」
みなみがくしゃみをして寒そうに身体を擦っている。シャツが濡れて、淡い水色の下着のラインがうっすら見える。ドキリとして、慌てて俺は自分のジャケットをみなみに着せた。みなみは困った顔で笑う。
「ありがとう。あーあ、こんなにびしょびしょになっちゃって…」
「寒くない?」
「ん、ちょっと寒いかも。でもしばらく止みそうにないね…」
そう言ってみなみは空を見上げる。雨粒がその首筋を伝い、つつ、と胸元に流れる。雨に濡れた髪が妙に色っぽい。衝動的に、俺はみなみに触れたい、と思ってしまう。
少しの沈黙のあと、俺は思い切って切り出した。
「…俺の家、このすぐ近くなんだ。良かったら服が乾くまで寄ってかない?」
みなみは目を見開いた。そして少し迷ったあとでポソッと呟いた。
「…うん、いいよ」
雨足が弱まったのを見計らって、俺達はまた駆け出した。
服が乾くまで、なんてただの口実だ。それはみなみだって分かっていたと思う。一人暮らしの男の家に上がるというのは、つまりそういう事だ。
家に着くと、俺は新しいシャツの袖に腕を通し、みなみの分の着替えも用意した。部屋を温め、二人分のコーヒーを淹れる。
着替えて戻ってきたみなみに、片方のマグカップを渡す。みなみは両手で受け取り、一口飲んだ。
「…美味しい」
「だろ?それより髪、濡れたままで大丈夫?」
「うん、平気。菅原先生も風邪引かないようにね」
「うん、大丈夫」
沈黙が降りる。冷蔵庫のノイズだけがやけに響く。
目線をコーヒーに落としたまま黙っているみなみに、俺は言った。
「…菅原先生じゃなくてさ、二人の時はまた名前で呼んでほしい」
みなみの肩がピクリと震えた。目線は下げたまま、静かに問いかける。
「……それって、どういう意味?」
「…また、みなみと一緒にいたいってこと」
みなみはマグカップをテーブルに置き、顔を伏せた。
「…私だって、ずっとそう思ってた」