【ハイキュー!!短編集】Step by Step!
第3章 Time goes by【菅原孝支】
入学式が終わり、ゴールデンウィークが過ぎ、六月に入ってからも、みなみと俺の関係はあまり変わらなかった。
男女バレー部の打ち合わせで顔を合わせることはあっても、そこから何かが発展することはない。
俺がたまにみなみのデスクを訪れて部活動の話をしたり、藤守に邪魔をされたりした程度だ。
唯一、最初のぎこちない雰囲気がなくなり、同級生らしい会話ができるようにはなったけど。
夏休みの合宿に向けて部活はよりハードになり、練習を終えて帰宅するのが大体夜の九時頃。
この日も、荷物をまとめてようやく校門を出たのが九時手前だった。少し前から雲行きが怪しくて、俺は雨に降られないよう足早に歩く。
そのとき、突然後ろから聞き慣れた声がした。
「菅原先生…?」
振り返ると、そこにはみなみが立っていた。暗くて気付かなかったが、先を歩いていた彼女を追い越していたらしい。みなみが小走りにこちらへ駆け寄ってくる。
「遅くまでお疲れ様です」
「野村先生こそ、今日は随分と帰りが遅いね」
「うん、明日の小テストの準備をしていたら遅くなっちゃって…」
そう言ってみなみははにかんだ。俺は彼女の歩調に合わせて並んで歩いた。
こうして二人で歩くのはすごく久しぶりだ。
少しの沈黙のあと、みなみが遠慮がちに口を開いた。
「…さっき、体育館で練習してるとこ見ちゃった」
「え、何だよ、見てたなら声かけてくれればいいのに」
「だって、練習の邪魔しちゃ悪いかなと思って…」
「…覗き見なんて、野村先生のエッチ」
「ち、違います…!!」
「はははは、ウソウソ!」
静かな夜に、二人の会話だけが響く。
「…でも菅原先生がバレーしてるの、懐かしい。…すごく、格好良かった」
みなみは最後にポツリと付け足した。そんな風に不意打ちの攻撃をするのは反則だ。ドクン、と心臓が脈打って、胸がぎゅっと締め付けられる。体温が一気に上昇したみたいに顔が熱い。
「あのさーーー」
みなみ、と呼ぼうとした時、急に空から大粒の雨が落ちてきた。ゴロゴロと不穏な音が鳴り、あっという間に土砂降りに変わる。
「わ、降ってきた…!!」
みなみが持っていたバッグを雨避けにする。
「ごめん、俺も傘持ってない…とりあえず、あそこまで走ろう」