【ハイキュー!!短編集】Step by Step!
第3章 Time goes by【菅原孝支】
その日の昼休み、俺は早めに昼食を済ませ、みなみのいる職員室へ向かった。今朝貰いそこねたプリントと、部活の話をするためというのが半分。もう半分は、純粋にただ顔が見たかったからだ。
「失礼します」
一礼して職員室へ入る。室内の左手奥に、みなみの背中を見つけた。近づいて声をかけようとしたところで、別の男性教師が先にみなみに話しかけた。
「すみません野村先生、新入生対象の古典のテストについてなんですが…」
「はい、何でしょう…?」
「春休みの課題の中から、ここからここまでの範囲でどうでしょう?」
そう言って、その男性はみなみとの距離をわざとらしく詰めた。みなみはというと、気にもとめない様子でにこにことしている。
「大丈夫だと思いますよ。藤守先生にお任せします」
「いつも相談に乗ってもらっちゃってすみません。今度、良ければ奢らせてください」
「いえいえ、お気遣いなく」
俺よりも少し年上くらいだろうか。身長も高いし、肩幅もある。藤守と呼ばれたその男性は、爽やかな笑顔をみなみに振りまいて自分のデスクに戻って行った。
みなみにその気はなさそうだけど、あの人にはありそうだな、と俺は思った。
こんな気持ちになっても仕方がないのは分かってる。でも、なんとなく生まれた対抗心は、俺の声を意図的に大きくした。
「野村先生!」
驚いてみなみがこちらを振り返る。
藤守の視線を感じたが、俺は気にせず続けた。
「今朝のプリント、いただきに来ました」
「菅原先生…!わ、私から持って行くと伝えたじゃないですか…!」
「校内を見て回るついでに立ち寄ったので、お気になさらず」
そう言って俺はみなみに笑顔を向ける。
みなみは顔を赤く染めて立ち上がり、慌ててファイルを手にコピー室へ向かう。
「もうっ…そこでちょっと待っててください…!」
「はい!」
しばらくしてみなみがプリントを片手に戻ってきた。俺はそれを受け取り「じゃあ、今後もよろしくお願いします」と伝えて足早に職員室を出る。
「人気者ねぇ、野村先生」
みなみの向かいに座っていた年配の女性教師が、にっこりとそう言ったのが聞こえた。