第5章 ミコノチスジ
しばらく歩き、街の奥にひっそりとたっている建物についた。
一見お客さんも入るのを拒んでしまうような古ぼけた店である。
「ここです。見た目はこんなんですけど、こう見えても結構お客さん来るんですよ」
中に入ると落ち着いた雰囲気の音楽が店内を包んでいた。店内には数人の客がカウンターに腰掛けている。
「お!見ない顔だな!マスターの知り合いか?」
突如カウンターに座っていた男が、優雨と翠月に声をかけた。
青年は常連客にマスターという愛称で親しまれているらしく、青年は微笑みながら『えぇ』と答えた。
「お嬢ちゃんも気をつけろよ?こいつとてつもなく女癖わりーから」
男はハハッと笑いながら青年を見た。
「人聞きの悪いこと言わないでくださいよ〜」
青年はコーヒーを入れながら、チラリと翠月の大きな胸元を見る。
しばらく他愛もない話で盛り上がると、常連客たちは帰っていった。
「さて、ほかの客もいなくなったことですし、本題に入りましょうか」
「本題ねぇ…そんじゃー聞くけど、お前何者?」
優雨は単刀直入に聞いた。
「ちょっと優雨!礼儀ってもんがあるでしょ?」
「ははっ やだなぁ、先程申し上げた通り町長の息子ですよ」
相変わらず表示ひとつ動かさない青年は、入れ終わったコーヒーを優雨と翠月の目の前にコトンと置いた。
「名前を名乗らない理由は?」
続けて翠月も青年に問う。
「特に理由なんてないですよ、ただ知らない人に名前を名乗るというのは少々気が引けるものでして」
蒼風と紅風は青年が出してくれたお菓子の包み紙を器用にほどいて嬉しそうに食べている。
「さっきから結構入り込んだ質問されますね、そんなに僕が気になりますか?」
青年は椅子に座り、ニコッと笑った。
「まぁね。いきなり見ず知らずの私たちに声かけて、自分の店連れ込んでこんな話してるなんて、あまりにも不自然だと思うけど?」
翠月も笑いながら返す。
3人と2匹だけのこの空間で、コチコチと時間の進む音がやたらと響く。
「いい加減本当のこと話したらどうだ?キツネの殺し屋さんよ」
真顔で優雨が追い詰める。
すると青年は、一瞬表情を曇らせたかと思うと、すぐにまたにっこりと笑った。
「さすがですね、いつ気づいたんです?」
「月夜の白猫…ガキでもわかるなぞなぞだな」