第61章 前髪―――米屋陽介
「出水」
浴場に向かっていると後ろから声をかけられた
「おう、三輪」
「夏海は?」
「今さっき部屋に入った」
「なら、あとは俺たちがやるだけだな」
「ああ」
「よー、弾バカ遅かったな。あ、秀次」
米屋は既に裸になっていて浴場の扉を開いた
「お前らも早く来いよ!」
そう言って中に入るのを見届けてから二人は顔を見合わせ頷いた
サッとカチューシャをとり、出水の持っている鞄のなかに押し込む
「待て」
それを三輪が制した
「俺が持っておく。お前は疑われるかもしれないからな」
「そうだな。頼む」
「ああ」
三輪はカチューシャを鞄にいれて服を脱ぎ出す
「急げ、怪しまれるぞ」
「だな」
二人は服を脱いで扉を開いた
すると、米屋は既に浸かっており、他の男子もシャワーを使っているのは少ししかいなかった
「急ごうぜ」
「ああ」
二人は黙々と手を動かして洗うと米屋の近くに入った
「なあ!出水と三輪!今話してたんだけどさ、朝霧って胸でかくね?」
友達が肩を組んできて何を言い出すかと思えば、まさか夏海の名前が出てくるとは予想していなかったため、ピクリと反応した
「ああ、そうだな……」
「お前らそれあいつに言うなよー?殺されるから」
ケラケラと笑いながら米屋が言ったが、男子たちは気にしていないようだった
話はそこからどんどん下ネタになっていった
「あー、浸かりすぎたな。ちょっとのぼせちまった」
そう言いながらゆっくりと着替える米屋を見ながら、出水と三輪は怪しまれない程度に早く着替える
「槍バカー、まだか?」
「あともうちょっと」
「早くしろ」
二人にせかされて米屋も着替え終わったその時
「あれ?カチューシャがねぇ!!」
((来た!!))
二人は目を見合わせた
「おい、陽介。そんなもの無くてもいいだろう?」
「まあ、予備はあるんだけどさ……」
「あるのかよ!?」
「当たり前だろー?無くなったらやべーんだから」
そう言って振り返った米屋は前髪があり、いつもよりイケメンに見える……気がした
「じゃあいいだろ。さっさと行こうぜ」
「えー、……まぁいっか」
思いの外簡単だったが、何とか誤魔化すことが出来た
3人は出水と米屋の部屋に戻った