第58章 猫化―――太刀川慶
『猫化しててよかったねぇ……慶?』
「にゃ!?」
その言葉を聞いてサァーと血の気が引いていく
俺が猫じゃなかったら殴り飛ばされていたということだろう
きっと夏海なら躊躇わずにやる
……いや、きっとじゃない、絶対だ
『でも、何時までもこうしているわけにもいかないしね。私の家においでよ』
「にゃっ!」
夏海と同じ屋根の下にいて何もできないなんて堪えられない!
そんな俺の思考を読んだのか、夏海は俺の首根っこを掴んだ
『意地張らないの!公平とかが来て笑い者にされるよりはマシでしょ!』
た、確かに……
そう思い、大人しくすると夏海がくすっと笑った
『う~ん……。一緒に寝てあげるから我慢して』
「!!」
一緒に寝る………夏海から言われたのは初めてだ
俺たちは付き合ってもう一年になる
そういう行為はすでに何回かしているが、いつも俺からだった
キスも添い寝もそういう行為も夏海から言い出してくれたことはない
猫になってよかったかも……!?
そんなことを考えながらニヤニヤとしていると手が離され俺の体は地面に落下していく
「にゃ!」
俺自身は驚いたが、猫の体は柔軟ですとっと地面に着地する
『チッ』
「シャァ!」
今、今舌打ちしただろ!
威嚇してみると、夏海はくすっと笑い俺を優しく撫でた
くすぐったい感覚に身を委ねていると夏海が俺を抱き上げ、顔を近づけてきた
ちゅ
僅かに唇が触れ、夏海が照れ臭そうに笑う
「にゃあぁ」
やっぱり猫になってよかった