第35章 障害――――出水公平(中)
忍田さんは安心したように息を吐き出した
「ありがとう。助かった。
………じゃあ、これ、渡しておく」
そう言って渡されたのは大福だ
「慶がちゃんと終わらせたら一緒に食べてくれ」
私は大福を受け取って頷いた
そして、次の日
今日は太刀川隊は非番らしく朝から太刀川隊の作戦室で課題をやっているということなので、昨日渡された大福をもって、太刀川さんのもとへ急いだ
コンコンコン
ノックして少しすると中から太刀川さんが出てきた
「夏海ー!」
桐絵ちゃんと同じように抱きついてきた太刀川さんを引き剥がして中にはいる
しかし、次の瞬間私は太刀川さんの後ろに隠れた
「……あ………昨日の………」
そこにいたのは昨日廊下でぶつかった男の子
「……何?お前ら知り合い……?」
私の顔を覗き込んで聞いてくる太刀川さんにノートを見せた
『昨日、廊下でぶつかったんです』
「……へぇ……」
他人事のようにあごひげを撫でている太刀川さんを軽く叩く
『どうして、他の人がいることを教えてくれなかったんですか!?』
「いやぁ、すっかり忘れてた」
なはははは、と笑う太刀川さんの後ろからひょこっ、とこの前の男の子が顔を覗かせた
驚きのあまり後ろに飛び退く
「この子、話せないんすか?」
「耳が聞こえないんだよ。あ、でも、口の動き見て会話は理解できる」
「なるほど」
男の子は私の前まで歩いてくると、私の前に手を差し出した
「俺、出水公平。よろしくな」
にかっ、と笑った出水くんは私が手をとるのを躊躇っていると私の手をとって握手した
出水くんは私と同い年で、太刀川隊のシューターで、今日は太刀川さんの課題を手伝わされているらしい
しかし、
『ダメですよ。太刀川さん。忍田さんに自分の力でやらせるように言われてますから』
出水くんの手からレポートを貰って太刀川さんの前にドンッ、と置いた
「夏海、鬼だ……」
ふんっ、とそっぽを向いた先で出水くんと目があって慌てて目を逸らす
太刀川さんがいるせいか、なれるのがいつもより早いが、やっぱり私は人見知りでなかなか目をあわせることが出来ない
それでも、出水くんは嫌な顔ひとつせずにっ、と笑ってくれる
「夏海ー。俺もう無理ー」
そんな私の思考を机に突っ伏した太刀川さんが現実に引き戻した