第8章 会いたくない
「…幻聴?」
ほどなくして、謎の声は余韻を残すことなく消えた。
まるで白昼夢。
泡沫のようで、淡く空気に溶けた。
「なんだったの…」
思わず溢れる独り言は、返してくれる相手がいないことを思い出させる。
「……」
吉野さん、結城くん、それから
変貌する前の根津さん。
彼は悪い人には見えなかったのにな。
「静か…」
壁に語りかけるように、私はソファに倒れた。
ふかふかで弾力のある素材が、私の体を軽々と持ち上げてくれた。
「いっそ寝てしまおうか…」
時刻は午後10時。
本当ならお酒に溺れてしまいたいところだけど、そんな気力は無いし。
シャワーだけでも浴びなくちゃね。