第3章 住居人
俺を急かす達央。
いつもの笑顔が心なしか楽しそうに見える。
お前らしいよ。
そう心の中で声をかけ、俺はフッとばれないように笑って、番号を入力した。
入ってすぐ左にある管理人室。
窓ガラスの先に座る綺麗な顔立ちをした可愛らしい少女を見て、達央は振り返った。
『ビンゴ』
息だけが吐き出されたような、小さな声だった。たぶん相当タイプって事だろ。
ニヤニヤする達央に笑い返すけど、俺は正直迷ってる。
この純粋そうな女の子は何も知らないんだろ。元々は恋愛禁止なんて馬鹿げた制度が間違ってるわけだが……。
駄目だ。いろいろ考えて何が正しいかわからなくなってきた。
ただこの子が本当に嫌がるなら、無理は出来ない。
俺は、無理だけは絶対にさせない。
俺と達央を見た管理人さんは顔を真っ赤にして、慌てた様子で鍵と袋を渡してきた。
受け取るなり達央は中の黒い箱を見て、またニヤニヤ笑って指を差す。
『これか』
今の所はまだ俺に使用予定はないけど、こいつは絶対に使うな。たぶん、今夜にでも使いそうな男だし。
『これからよろしく〜』
意味深な達央の言葉に続けて俺も笑って見せる。
『よろしくね』
『は、はい……!よろしく、お願いします!!』
緊張した大きな声と、可愛いのに自信なさげに縮こまった態度と眉の下がった表情。
断じて言いたい。俺じゃなくてこいつのせいって。
ヤバい、この顔……たまんないわ。