第3章 住居人
「君、声優好きでしょ」
必死に頷くわたし。たぶん顔が真っ赤で変な表情だ。
ツイてるって言っていいのかな。
でも非現実に近い。
これって本当に夢じゃない?わかんない、夢じゃないんだよね?もう自分がわけがわからなくなる。
「よろしくね」
「こ、ちらこそ…」
諏訪部さんの私服カッコイイな…。
鍵を準備しながら諏訪部さんを横目に見る。
絶対に毎朝早く起きて見るな、わたし。他の住居人さんより絶対に贔屓する!
だって声優さんだもん。
「どうぞ」
鍵を差し出すと、受け取る時に諏訪部さんの手がわたしの手に重なる。
ビクッとなって、手を引っ込めた。
「あ、ごめんなさい…。緊張しちゃって……」
今、手当たった…。
声優さんに触れた?
イベントにもライブにも行った事がないわたしだけど、普通イベントでも触れるなんて出来ない事。
一(いち)一般人のわたしが、しかもファンごときが…今神の領域に踏み入ったのかもしれない。
これ以上お近づきになりたいなんて欲張らないから、せめてたまに一言二言……。
これって欲張りかな?
「じゃあまた今度ね」
手を振って歩いていく後ろ姿を見て、諏訪部さんが引っ越すまでは絶対に仕事を辞めない事に決めた。